[大発見]世界最古級の旧約聖書写本を最新CT技術でデジタル解析

CT技術は非破壊検査の主役!現在進行形で進化し続けている

 医療分野や物質材料研究の分野でCT(Computerized Tomography)技術を使い、非破壊での検査を行うことは良く知られています。CTというのは、簡単に説明しますと、X(レントゲン撮影のときに使う光線)360度の方向から対象物に照射し、組織の放射線吸収量の違いをコンピュータによって計測するものです。具体的には、胸のレントゲン写真を撮影すると、内臓と骨はぜんぜん白黒の強弱が違いますよね?これは骨のようにカルシウムが多く含まれ、かつ密度の高い物質はX線を吸収し、逆にC(炭素)H(水素)O(酸素)などという軽元素の割合が多い軟組織=内臓などはX線を透過し、写真として上手く映らないことを意味します。もちろん、X線の強度によって映り具合は変わってきます。X線をぐるっと照射したものがCTであると、ざっくり思ってください。(ざっくりすぎて専門家の先生に怒られるかもしれませんが。)

 いま、CT技術はどんどん発展していて、もはや360度も回転照射させる必要すら無くなってきています。そのため、測定時間・被ばく量を減少させることができるようになりました。しかも、ハードウェアやアルゴリズムの進歩により画像の分解能は良くなり、エックス線吸収率の差を画像化させることで3次元立体構築にすることもでき、物質内部の情報詳細を明らかにすることが可能になりました。

世界最古級の旧約聖書をCT技術で解明に成功!

 2016921日に発表されたアメリカの科学誌「サイエンス・アドバンシズ」掲載論文によると、Ein-Gedi文書という旧約聖書のレビ記が記された巻物をCT技術を用いて解明することに成功した、と発表されました。この巻物、時代としては3~4世紀、あるいはもっと以前の年代に記された巻物である可能性があります。触れるだけでぼろぼろになる可能性のある巻物をCTで解読できたことは、現代科学の勝利であり、時代を紐解く重要な発見です。論文中でも、本件の解析を聖書考古学における重要な発見と発表しています。

文章だけ書いてもわかりませんよね?その巻物ってどんなものなのでしょうか。

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巻物といえば、これしかイメージできません。ただ、34世紀の文明で、しかも海外で作られた巻物ですので、真ん中に芯が入っているものとは違うのかもしれません。

実物は素人が見ても、巻物なのか何なのか分からない

 論文の解析に使用した巻物はこちらです↓

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https://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2016/09/21/how-scientists-read-an-ancient-and-fragile-biblical-scroll-without-unrolling-it/

なんじゃこりゃ? もう巻物なのか土の塊なのか灰なのか、見分けすら付きません。これ、触るとぼろぼろに崩れるそうで、触れることすら許されない超重要資料なのです。

それを慎重にサンプルステージに載せ、CTスキャンをとります。

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https://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2016/09/21/how-scientists-read-an-ancient-and-fragile-biblical-scroll-without-unrolling-it/

 実は筆者も大学時にCT解析を行った経験があります。脆いサンプル計測のときは、試料のセッティングが非常に大変なのです。何が大変かというと、サンプルをステージまで移動させることなのです。移動中にサンプルへダメージが加わることは絶対にNG。このプレッシャーはハンパではありません。おそらく、空調を完全にとめた無風の状態で、かつ非常にゆっくりと慎重にステージへ運んだのでしょう。今から1700年も昔の資料なんて、失敗しても取り返しがつきませんからね。

そして無事に測定し終わった画像がこちらです↓

巻物の中身が鮮明に画像化されている!

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https://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2016/09/21/how-scientists-read-an-ancient-and-fragile-biblical-scroll-without-unrolling-it/

 画像を見る限り、CTを測定した後の画像解析部分で非常に多くの労力をかけたものだと考えられます。頭で想像するのは簡単ですが、画像は「数字データの集まり」です。3次元空間において、どことどこの部分が繋がっていて、というのを考えながら巻物を展開しなければいけません。幸運にも、巻物の文字中にインクと考えられる金属物質が含まれており、3次元画像の展開を上手く成功に繋げることができたと思われます。冒頭にもちょっとだけ説明しましたが、

X線の吸収率の差が画像として現れる

骨はX線を吸収する、内臓はX線に吸収されにくい

巻物中のインク=金属物質=物質密度が大きい=X線を吸収する

インク部分以外とのX線吸収率の差が画像として表現できた。

巻物を展開するヒント情報が得られ、解析が上手くいった。

という流れになります。

ともあれ、ここまで分解能の高い画像データを用意できるとは、現代技術は素晴らしい、の一言です。

今後、このような巻物の文章が“可能性”として考えられていた歴史を覆す例が出てくると思います。海外だけではなく、日本の考古学的に貴重な資料も、現代の最新技術に頼ってみると新たな発見が生まれてくるのかもしれませんね。

今は人工知能、とくにディープラーニングの技術が世界中で注目され開発競争の中にあります。このような考古学の分野においても、例えば文字の特徴を覚えこませることで、CTスキャンの画像から何か重要な情報が得られる未来もやってくると思います。今回の論文では人工知能の技術を活用していない可能性は高いですが、ハードウェアの進歩、ソフトウェアの進歩、そして考古学など多分野におけるノウハウ領域を融合させたところに面白い事実が浮かび上がってくると筆者は確信しています。